2023/7/19「著作権をまなぼう」にご出席くださったみなさんへ

7月19日(水)、愛知淑徳大学 創造表現学部の共通科目「知的財産権」の講義に、弁護士の鈴木恵美先生よりお声をかけて頂き、ゲストスピーカーとしてお話させて頂きました。自分の作品を創ろうとする若い方々にお会いできて、とても嬉しく、貴重な機会を頂けましたこと、本当に感謝しております。恵美先生、お聞きくださった皆さん、どうも有難うございました。

以下、講義の資料の最後に入れました、私の参考文献やおすすめサイトです。

ジュリアン・シモン「突風」の横山による模写

 

一方、私の準備不足、勉強不足で、至らない点が多かったこと、反省点も多くあります。特に講義後の質疑応答では、恵美先生に助けて頂きましたが、ここで改めて私の回答をまとめたいと思います。記憶違いでピントがずれてしまっていたら、恐縮ですが、コメントにてご指摘頂ければ幸いです。(なお、追加の質問についてはお受けできませんので、ご了承ください)

質問1.まったく報酬が発生しない場合は、クリエイターに無断で利用できるということだが、ストリートミュージシャンの場合はどうなるか?

回答1.講義では「一概には言えない」というあいまいな回答をしましたが、ストリートミュージシャンの演奏というものはさまざまな場合が考えられるからです。著作権法上から言えば、著作権法第38条に該当すれば、「無断でJ-POPの有名な曲を演奏できます」。

第三十八条 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

駅前に簡易椅子をもってきて、ギターを弾きながら、あいみょんの『愛の花』を歌っている。お金の入っている空き缶やギターケースなどは見られない。この場合は、問題ないと言えるでしょう。しかしその人が、『愛の花』ばかりエンエンと演奏してギターケースにはお金が入っている、あるいはその『愛の花』の演奏が評判となって、その曲目当てに人がたくさん集まるようになっている、というようになると、判断が変わる可能性があります。

なお、例を想像してはみましたが、「問題ないかどうか」を考えるにあたって、「たとえばこういう場合はどうなる?」と、想像した場面をもとにして判断するのは、個人的には不安です。「たとえばこういう場合」いうとき、お互い想像していることが違うことがあるからです。実際に路上ライヴする誰かのパフォーマンスについて、「これは著作権法では問題があるか」という判断をすることはできますが、「たとえばこういう場合は著作権法違反になるか」という質問は、とても難しいということです。したがって、講義で述べたような回答になるわけですが、「どこからどう判断しても、著作権法第38条の条件をクリアしていれば」、路上ライヴの演奏も問題はないといえます。

質問2.(2018年に日本で著作権法改正があり、保護期間が著作者の死後70年となったが)2018年までに死後70年を経過していない場合はどうなるか?

回答2.「2018年までに死後70年を経過していない場合」はいろいろなケースが考えられます。「ひとつひとつの場合について判断する必要がある」というのが、まず基本の回答です。

a. 1950年に亡くなったイギリス人作家
b. 2000年に亡くなった日本人作家
c. 1967年に亡くなった中国人作家
d. 1968年に亡くなった中国人作家
e. 1958年に亡くなったギリシャ人作家

それぞれの保護期間満了の年は以下のとおりです。

a. 2011年(戦時加算期間:10年と144日)
b. 2070年
c. 2017年
d. 2038年
e. 2040年(戦時加算期間:11年と165日)

このように、作家の国や亡くなった年によって、かなり変わることになります。考え方については、恵美先生からご助言がありましたように、授業のテキスト『エンタテインメント法実務』の26-28頁をご参照ください。また、戦時加算の日数については、文部科学省のサイト「著作権の保護期間に関する戦時加算について」に説明があります。なお、中国については「サンフランシスコ条約に署名していない」という理由で、戦時加算の日数はプラスしていません。

講義中では話をなるべく簡単にするために、2018年に法改正と説明しましたが、新しい法律が70年になったのは、2018年12月30日です。なぜ2019年ではないのか。これについては、あくまで私見ですが、記事にまとめたものがありますので、ご興味があればご覧ください。「引き際も彼に倣って欲しかった。映画『シェーン』事件」

質問3.ある漫画に、他の漫画家さんの漫画のキャラクターを描いている場合、著作権法の問題はないのか?

「著作者の漫画家さんに無断で、他のキャラクターを登場させる」というのは、原則としては著作権侵害になります。しかし実際問題としては、漫画家さんどうしの遊びということでお互い楽しんでいるのではないかと思います。また、もしかしたら、お互い普段の会話で「いいよいいよ」と許し合っているかもしれません。その場合、無断ではないわけですから、著作権侵害にはならなくなります。公開された作品には、裏でどのように取り決めているかはわからない場合があります。ですので、「この人は〇〇さんのキャラをパクっている!」とSNSで指摘したり攻撃したりすることは、とても危険で失礼にあたることもありますので、注意が必要です。

なお、私が想定した場面は、漫画家さん同士が、漫画雑誌に描く場合、です。いわゆる「二次創作」の同人誌で読者さんが描く場合は、許諾を得ている場合というのは考えにくいです。私もかつて同人誌を作って楽しんでいましたし、そこからプロになった漫画家さんや、漫画業界への盛り上がりも考えますと、やめるべきだとは思いません。ただ、行き過ぎの表現で漫画家さんを傷つける場合も耳にしていて、憂慮しています。著作物のユーザーも、クリエイターのお仕事や気持ちを十分に考えて、お互いに幸せに楽しめる社会づくりが必要だと思います。

※2023/7/24 20:24 誤字・誤記を訂正させて頂きました。

 

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第14回赤い羽根チャリティ展覧会のお知らせ

名古屋市昭和区社会福祉協議会開催
(2022年10月11日(火)ー12月23日(金)
午前9時ー午後5時 ※日曜・祝日休み、最終日は午後3時まで)
の、「赤い羽根チャリティ展覧会」に出展しました!

以下のリンクより、現在出展中の作品がご覧になれます。
伝書鳩ー赤い羽根チャリティ展覧会ブログー

私の作品のお引き渡しは「会期後に引き取りに来て頂く」
もしくは「着払いで配送」でお願いしております。
ご購入くださった方にその場でお渡しできず、大変恐縮ですが、
よろしくお願い致します。

↑私のスペースはさみしげな感じになってしまいましたが(;´•ω•)
他の方々のスペースは力作ぞろいで、華やかで、目を楽しませてくれます!
どうぞお運びください!

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Thank them(彼らに感謝しよう)よりSave them(彼らを守ろう)

WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルスの流行をパンデミックという認識を発表したのが2020年3月。それからひと月ほど経ち、日本においても、医療関係と生活必需品を扱うお店以外はほぼ休業の動きとなってきています。そんな中、この「不安な環境で仕事してくれているすべての人々に感謝しよう」という声が、SNS上でも、世界的なセレブリティの間でも広まりつつあります。Googleのトップロゴも、4月6日から、ある仕事に従事する人々への感謝を示すものが表示されます。

“Thank you(ありがとう)”

しかし、「不安な環境で仕事してくれているすべての人々に感謝しよう」という文脈で発せられる、この美しい言葉を聞くたびに戸惑っています。嫌だろうが何だろうがやらざるを得ない状況にいる人々に、「ありがとう」ということが、彼らを追い詰めることになりはしないかと。SNS上で聞こえてくる「医療現場はもう限界」「スーパーで働いてても怖い」「会社は現場に消毒液も何も手配してくれない」という声たちを無視した、一方的な感謝になってはいないかと。自分が代わる気はないのに、相手を辞めさせないための、切り札になりはしないかと。何より、「ありがとう」と言うことで、自分が安心するための言葉になってはいないかと。

苦闘、恐怖、悲痛… 新型コロナ最前線で闘う医療従事者たちの現状」(AFPBB News, 2020.4.15)

神奈川県医師会が、「不安をあおるメディア」に投げかける疑問 「医療現場の現実を、知ってもらいたいのです」(J-Castニュース, 2020.4.18)

もちろん、「ありがとう」というとき、人は本当に相手の尊い労働を思い、ねぎらっていることは理解しています。ですが、今必要なのは、遠くからの感謝ではなく、日々の行動だと思います。つまり、感染しない・させないために、人が密集する場所は避ける。買い物はなるべく一人で。レジ待ちも袋詰めも、隣の方と間隔を空ける。政府の対策が不十分と思ったら、SNSでも何でもいいのでそのように発信する。現在の対応に問題があるのだとしても、病院で検査できないと言われたら、それに従う。そして、現場で応対してくださる方には、目を見て「ありがとう」と言う。相手への敬意や感謝は、そのような形で示せばいいのではないでしょうか。

コロナの不安が解消されたときこそ、社会全体で「彼らにありがとう」と言うべきであって、不安な状況の真っただ中にいる今は、「彼らを守ろう」という方が、ふさわしいのではないかと考えています。

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