1月17日(水)、愛知淑徳大学 創造表現学部の共通科目「知的財産権」の講義にて、2回目のお話をさせて頂きました。お話しした内容は7月19日のものとほぼ同じです。今回も、ときにはうなずきながらお話を聞いてくださる学生さんたちにお会いできて、とても楽しく幸せな時間でした。恵美先生、お聞きくださった皆さん、どうも有難うございました。
まず、講義の資料の最後に入れました、私の参考文献やおすすめサイトです。こちらも7月19日のものとほぼ同じですが、再掲致します。
岡本薫『著作権の考え方』岩波新書、2003.初心者向けではないですが、著作権法の目的や問題点なども含め、独自の視点による解説があります。
川上大雅『駆け出しクリエイターのための著作権Q&A』玄光社、2020.なるべくわかりやすい言葉を使った解説の本です。
友利昴『エセ著作権事件簿』パブリブ、2022. 「著作物のうち、使えるポイント」を探るためのヒントが満載!
日本女子大学 知的財産活動委員会「大学生のための著作権ガイド」 大学生活で関わる著作権を学ぶいい説明です。
サーティファイ ビジネス著作権検定 著作権に興味をもって、資格を取りたいというときに、こちらはいかがでしょうか?
「くまのプーさん:新たなる旅立ち」【プーの著作権がいつ切れるかというお話 update版】
「擬似著作権: ピーターラビット、お前に永遠の命をあげよう」
「ミッキーマウスの著作権保護期間~史上最大キャラクターの日本での保護は2020年5月で終わるのか。2052年まで続くのか~」
著作権界の第一人者、福井健策先生のブログです。
スタジオジブリ 画像提供 講義でご紹介した、「常識の範囲でご自由にお使いください」という画像のページです。模写に挑戦、いかがでしょう?
さて、今回とてもたくさんのご質問を頂き、授業でお伺いできなかった件を後日メールにて頂きました。また、当日に宿題にさせて頂いた件を、ここでまとめてお知らせします。もし、「宿題にすると言ったのに回答がない!」とか、「自分の質問と違う!」とかいうことがあれば、恐縮ですが、コメントにてご指摘頂ければ幸いです。(なお、追加の質問についてはお受けできませんので、ご了承ください)
質問1.ベルヌ条約との関係で、海外の作品は日本の法律で利用できるということだが、在日外国人の作品についてはどうなるか?
回答1.まず、Weblio辞書での情報により、「在日外国人」を「日本に暮す外国人の総称」とします。例として、日本でインド料理店を営むクマールさんが、スパイスについてのエッセイを書いたとします。それでは、著作権情報センターのサイトから著作権法の条文を見てみましょう。
(保護を受ける著作物)
第六条 著作物は、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律による保護を受ける。
(1) 日本国民(わが国の法令に基づいて設立された法人及び国内に主たる事務所を有する法人を含む。以下同じ。)の著作物
(2) 最初に国内において発行された著作物(最初に国外において発行されたが、その発行の日から三十日以内に国内において発行されたものを含む。)
(3) 前二号に掲げるもののほか、条約によりわが国が保護の義務を負う著作物
(1)にクマールさんが含まれないとしても、ベルヌ条約の加盟国であるインドの国民として、クマールさんのエッセイは(3)を根拠に保護されることになります。また、日本の著作権法を根拠に利用できます(なお、授業では国籍は関係ないとお話したと思いますが、日本の著作権法では国民であることが条件なので、不正確でした。勉強不足で申し訳ありません)。
上の例はわかりやすいものにしてみましたが、個々の方々がどの国の国民か、その国はどういう条約に加盟しているか、その条約はどういう内容か、きちんと確認して判断する必要があります。
日本と国交のない国(たとえば台湾)の人が書いた小説の著作権はどうなるでしょう?台湾旅行に行って本を買って帰って、それを転載してもいいか?」答えはバツです。外国との条約にはさまざまなものがあります。台湾はWTO協定という国際協定の加盟国であり、それによって保護されます。外国の作品もよっぽどの事情がない限り、法律によって利用すべきであり、無断利用はできないと考えていいでしょう。
質問2.アンディーウォーホルの作品「マリリン・ディスパッチ」で、元となる絵があると思うが、アンディーウォーホル自身がマリリンモンローの写真を撮ったならともかく、撮っていないとしたら、その元となる写真を撮った写真家の著作権に抵触するのではないか?
回答2.授業でお話した、「著作物(思想または感情を創作的に表現したもの)でないポイント」が重要です。元となる写真を真似たとしても、その写真にある「著作物」が表現されていないのであれば、著作権侵害ではない、という結論になります。もし、写真家さんがマリリンに椅子に座らせるなどポーズを取らせていたら、それは写真家さんの「著作物」になりえますが、「マリリン・ディスパッチ」の場合特徴といえるのは髪型や笑顔くらいで、絵の女性は笑顔でもないですし、元の写真の特徴を再現したとは言えなくなっています。
(中村桂子「モンローのような女」2023年3月19日、Instagram、https://www.instagram.com/p/Cp90aPhPBXW/?img_index=1、 2023年3月19日投稿、2023年7月9日閲覧。)
(Andy Warhol “Marilyn Diptych”、https://en.wikipedia.org/wiki/Marilyn_Diptych、ウィキペディア、2023年5月18日更新、2023年7月9日閲覧。)
私も勘違いしがちなのですが、真似をすること自体が悪いのではありません。真似をした結果生まれた作品が、元の作品の作り手の権利を侵害するかどうかが問題なのです。これは私が過去に知った例ですが、知的障がいの方の福祉施設で、ある利用者さんが雑誌に載っていた川の白黒写真を見て絵を描きました。それで生まれた絵は、色とりどりで線にも強弱があって、とても元の写真に似ているといえないようなものでした。もし、「真似をして描いてはいけません」と事前に押しとどめてしまったら、その絵の誕生をなくしてしまうところだったでしょう。著作権を知ることによって、「たとえ真似たとしても堂々と世にお披露目できる」、そういう判断ができるようになるのだと思います。
なお、作品には、一人だけでなく何人かの権利が関係することがあります。あらゆる角度から確認してトラブルがないようにすることはとても大事で、「アンディ・ウォーホルの他にも、写真家の権利はどうなんだろう?」と考えるのはとてもいい着眼点でした。これからの勉強やお仕事にも必ず役立ちますよ。